18世紀半ばから19世紀前半にあたる古典派の時代になると、フルートの半音階や高音域を実現するためにキーメカニズムが付け加えられていき、最高では17ものキーがついた楽器があったといわれる。しかし、これらは必要に応じて付けられたもので、統一されていたわけではなく、運指も複雑であった。この頃一般的に使われていたのは6キーあるいは8キーのもので、管体はバロック時代と変わらず木製で円錐形、最高音はA6とされていた。このような楽器をバロック時代の1キーフルートと区別して、「クラシカル・フルート」と呼ぶことがある。
ベーム式フルート [編集]
1820年ごろから活躍していたイギリス人フルート奏者 C. ニコルソン(1795年 - 1837年)は、その手の大きさと卓越した技術によって通常よりも大きなトーンホールの楽器を演奏していた。ドイツ人フルート奏者で製作者でもあったテオバルト・ベームは、1831年にロンドンでニコルソンの演奏を聞き、その音量の大きさに影響を受け、本格的な楽器の改良を始めた。1832年に発表されたモデルは以下のようなものであった。
個々のトーンホールを大きくして、大きな音を出すことを可能にした。
リングキーを採用して1本の指で複数のキーを動かすことを可能にした(ベーム式メカニズム)ことにより、クロスフィンガリングを用いることなく、半音階が演奏可能となり、均質な響きが得られるようになったが、ほとんどの運指が変更された。
それまでD管だった管体をC管にした。
通常、全てのキーを開いた状態にしておくオープンキーの原則を採用した。(Gisオープン式)
これはGisオープンの機構を除いて、フランスで受け入れられた。ベームはその後も改良を続け、1847年に発表されたモデルは、
円錐だった管体を円筒にし、音響学に基づいてトーンホールの位置を決め直した。同時に、高音域のピッチ改善と発音しやすさのため、円筒だった頭部管を円錐にした。
管体を木製から金属に変更し、より輝かしい響きを得られるようにした。
という、現在のフルートとほぼ同じものであった。これ以後現在までに加えられた変更は、フラット系の調を演奏するのに便利なように、低音域および中音域の変ロの運指を容易にするためのブリッチャルディ・キーが付け加えられたことと、フランスの人達がGisオープン式に馴染まなかったために、Gisクローズ式のものが多く用いられた程度である。
ベーム式フルートは、最初にフランスで、後にイギリスで使用されたが、発祥の地であるドイツでは20世紀に入るまで受け入れられなかった。ドイツの人達はこの新しい楽器を「全音域にわたって単調過ぎるほど均質で高音域では特に甲高い」とみなしたのである。さらに、この頃のドイツ音楽界に大きな影響を持っていたワーグナーがベーム式フルートの音色を激しく嫌ったことも、ドイツでの普及を妨げた大きな要因といわれている。
ロマン派中期以降 [編集]
19世紀半ば以降ベーム式フルートは、演奏性能の可能性と群を抜いた作りの良さが認められ、パリ音楽院の公式楽器に指定され、アンリ・アルテ、ポール・タファネル、フィリップ・ゴーベール、モイーズらフルート科教授によってその奏法の発展と確立がなされた。また、オーギュスト・ビュッフェ・ジュニア、クレール・ゴッドフロイ・シニア、ルイ・ロットらの楽器製作者がベーム式楽器の普及を助け、ドビュッシー、フォーレをはじめとする作曲家たちも、多くの名曲を書くこととなった。こうして、フランスは一気にフルート先進国としての地位を確立したのである。パリ音楽院では20世紀初頭において他の木管楽器も同様に演奏と作曲レパートリー双方の発展を遂げ、木管楽器を中心にパリ楽派(エコール・ド・パリ École de Paris)と呼ばれる一派を形成するに至った。
一方、ドイツやオーストリアでは、金属製の音色を好ましく思わないながらも、ベーム式メカニズムの長所を認め、20世紀に入る頃には、メカニズムはベーム式で管体が木製の楽器が用いられるようになった。
近現代 [編集]
第二次世界大戦後、レコードの普及や放送技術の発展とともに、ランパルがソリストとして活躍し、フルートの魅力を世界中に示すこととなった。また、モイーズがカリスマといえるほど、教育者としての影響を長い間持ち続けていたことと重なって、世界中でフルートの演奏スタイルといえば、フランス風のそれに大きく偏ったものとなっているといえる。楽器製作に関しては、現在、フランスはその地位をアメリカと日本に明け渡しており、世界的なシェアはこの2国がほとんどを占める。
前述の通りドビュッシーはフルートにおけるレパートリー拡張の第一人者であるが、中でも独奏曲『シランクス』はフルート独奏のための作曲という行為において重要な位置を占めている。
『シランクス』以後において初めてフルートの演奏法の拡張を試みた音楽は、エドガー・ヴァレーズの『密度21.5』である。これはキー・パーカッションといって、キーを強く叩きながら吹くことによるアタックの音の変化を求めた特殊奏法を開発し、また超高音域を執拗に求め演奏における音域の拡張に成功した。O・ニコレいわく「アンチ・シリンクス」。
ちなみに現在では一般的である、ヴィブラートの存在が確認されたのは第二次世界大戦以降で、それ以前はかけていなかったのではないかと推測されている。
その他戦前における特殊奏法としては、ジャック・イベールのフルート協奏曲のカデンツァ、リヒャルト・シュトラウス、ドミートリイ・ショスタコーヴィチの交響曲第8番などでは、巻き舌によるフラッターツンゲ奏法が試みられた。同じくイベールの協奏曲ではハーモニクス奏法も要求されている。
戦後の現代音楽では、まずフルート奏者のブルーノ・バルトロッチが重音奏法を体系化した教本を出版し、またピエール=イヴ・アルトーやロベルト・ファブリッツィアーニなどその他多くのフルート奏者、またサルヴァトーレ・シャリーノらの作曲家によって息音を含む奏法、ホイッスルトーン、タングラム、リップ・ピッツィカートなど新しい奏法も次々と開発された。これらの噪音的な奏法は現代音楽の多くのレパートリーで採用されることになった。当初は物珍しさからこれらを無反省に取り入れただけのレパートリーも乱発されたが、これら「現代音楽的語法」は今やあまりに一般的なものとなったために、作曲における方法論や構造が堅強な作品でない限りは次第に淘汰されつつある。しかしその中でルチアーノ・ベリオの『セクエンツァI』などの優れた名曲は現在も「古典」として多くの奏者によってコンサートや教育現場で取り上げられ、聴衆にも親しまれている。
現在はキーシステムにMIDI機構を取り付けた「MIDIフルート」と呼ばれる楽器も存在する。これは発音原理は通常のフルートと同じであり特に電子的な発音機構によるものではないが、MIDIの出力機構を備えており、奏者の演奏情報をリアルタイムに別のMIDI機器やコンピュータに伝えることができる。同一の指使いで複数のオクターヴの可能性のある音や演奏上の強弱(ヴェロシティ)の検知のためのセンサーも備わっている。ただし楽器は通常のものに比べて相当重い。ピエール・ブーレーズが『エクスプロザント・フィクス(爆発・固定)』で用いられるほか、IRCAMなどを中心に援用が見られる。
音域 [編集]
コンサート・フルートの基本的な音域はC4(中央ハ)から3オクターヴ上のC7であり、ほとんどの楽曲はこの範囲で作曲されている。ただし、最低音はB足部管を用いる場合、B3が可能であり、現代ではほとんど見かけることはないが、B♭3足部管も存在していた。また、最高音は、上に広げられる努力が重ねられており、F7までの運指が比較的広く知られている。チューニングする(他の楽器とピッチを合わせる)際には、オーケストラでA5を、吹奏楽ではB♭5を用いる。
なおラヴェルをはじめ幾つかの合奏曲などでB♭3(A#3)が存在するが、これは一般的に普及しているB足部管を用いても演奏不可能であるため、奏者によっては、特注の金属製管または厚紙などを丸めたものを足部管端に装着し演奏をすることもある。B♭3(A#3)が存在する理由としては和声の構成の理論上の音、作曲当時の楽器にB♭足部管が存在していた、作曲者の洒落等と考えられている。
最低音からB4までの音域は、低音域、あるいは第1オクターヴなどと呼ばれ、音量は大きくないが、幅広く柔らかい音色を特徴とする。特に最低音に近いいくつかの音は明瞭な発音が難しい。
C5からB5までの音域は、中音域、あるいは第2オクターヴなどと呼ばれ、表情豊かな音色を持ち、音量の変化が容易である。
C6からB6の音域は、高音域、あるいは第3オクターヴなどと呼ばれ、明るく輝かしい音色で、音量は比較的大きい。また、運指は中低音域に比較してやや不規則である。
C7より上の音域は、第4オクターヴと呼ばれ、高い音ほど発音が難しい。発音に非常に速い呼気を要するため音量は必然的に大きくなる。また音色は鋭く、空気音の混じったものになりがちである。この音域が開発されたのは20世紀に入ってからであり、現代音楽で使用されることがある。この音域は、楽器によって発音の難易度やピッチのばらつきも大きく、運指法も一定していない。現在はC8の運指まで発見されてはいるが、実際その音を出せる人は稀である。
ただし、音域に関する呼称は厳密なものではなくやや幅がある。例としてC6を中音域とするか高音域とするかは用語の使用者によって異なるため「チューニングA(吹奏楽ではB♭)の上のC」などと呼ぶのが確実である。
標準的な運指を用いた場合の音響学的な倍音モードは次の通りである。
C4(B足部管の場合はB3) - C#5:基音
D5 - C#6:第2倍音
D6:第3倍音
D#6 - B6:第4倍音(A6は第5倍音と考えることもできる)
C7:第6倍音
なお、フルートでは半音階のみならず、特殊な運指によって微分音を奏することも可能である。様々な運指が存在するが、一般的にはカバードキーよりもリングキーの方が容易である。主に現代曲に用いられ、作曲家が運指を指示することもある(例:B・ファーニホウ『ユニティカプセル』、K・アホ『ソロIII』、K・サーリアホ『ラコニズムドゥレル』など)。
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